地球外生命存在の可能性や地質学的多様性から,火星探査は活発に行われてきた1).従来の火星探査では探査衛星2),着陸機3),自走機4)が主な探査手段だったが,探査範囲と観測精度の両立に限界がある.そのため,近年は飛行による探査手段が注目されており, NASAのMars2020では回転翼による探査機5)が火星に送られる.国内では,Institute of Space and Astronautical Science/JapanAerospace eXploration Agency(ISAS/JAXA)と大学などの研究者からなる火星探査航空機リサーチグループにより航空機型の研究が行われており,2020年代の火星航空探査を目指している.火星に近い大気環境下での飛行データ取得を目的としたMars Airplane Balloon Experiment One (MABE-1)が設計され6),2016年にはJAXAの大気球を利用した第一回高高度飛行試験が実施されたが,飛行後半で制御が困難となったことに伴い,空力データ取得は計画の一部に留まった7).原因として,想定以上の動圧となったことによる機体変形が考えられている8).これを踏まえ,空力安定性の改善を目標とした次期大気球試験機(MABE-2)が設計された9).数値流体力学(Computational Fluid Dynamics: CFD)により静的な空力特性について調査が行われ,MABE-1に比べて静安定性や舵効きが改善されたことが示されている9)10).一方で,火星探査航空機の動的空力特性についての調査は十分とは言えない11).動的空力特性を評価することは運動モード解析や制御系設計には必要不可欠であるが,低レイノルズ数下で機体が回転,振動している状態での動的な風洞試験が難しい点などが挙げられる.橋本らはStandard Dynamics Model(SDM)を対象に,CFDを用いた動微係数の評価手法を提案し,動的風洞試験との比較を行うことでその手法の妥当性を示した12).そこで,本論文では橋本らの手法に倣って,CFDを用いてMABE-2の動微係数の取得を試み,縦,横,片揺れ運動時に空気力が機体に及ぼす影響と,航空機の縦の飛行性に強い影響を与える短周期モードの調査を行った.
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