原子間力顕微鏡(AFM,Atomic Force Microscope)を使用して高分子鎖を引き伸ばす力学的実験が最初に行なわれたのは1996年である.それ以来,世界のいくつかのグループにより延伸実験が行なわれている.用いられている高分子鎖はタンパク質とDNAが多いが,合成高分子鎖および多糖類鎖についての実験も行なわれている.通常の実験では,AFM用の基板の上に試料分子を固定しておき,この上に探針を接触させて基板―試料―探針の3者の間に非共有結合性あるいは共有結合性の架橋を形成する.こうして,図1(a)に示すように,高分子鎖上の適当な2点の一方をAFMの探針に,他方を雲母あるいはシリコン基板に結合してから探針と基板の間の距離を増していく.そうすると,高分子鎖は上下に引き伸ばされていくことになる.基板は固定されているが,探針は柔らかいカンテレバー先端にあるので,高分子鎖を引き伸ばす際の反作用でカンチレバーが下方変位を示す.この変位の大きさdにカンチレバーのばね定数点を乗じると高分子鎖に印加される張力Fを知ることができる.一方,高分子鎖の延伸距離Eは最初の位置からの試料台の移動距離Dからカンチレバーの変位量を引いて,E=D-dとして得ることができる.AFMが与えるd-Dの関係を,F-Eの関係にプロットしなおすことにより,ストレスーストレイン関係に準じた張力-延伸距離関係(F-Eカーブ)が得られる.
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