金唐革について

松本　誠

摘要

一般的に金唐革と呼ばれている革の大部分は，植物タンニンで鞣された革の上に銀箔を貼り付け,黄色のワニスや金ワニスを塗った革である。金唐革の源流を遡るには，中世ヨーロッパの皮革産業がどう発展したかをひもとく必要がある。中世ヨーロッパの皮革産業は，高度な皮革製造技術を持つイスラム教徒のムーア人がスペインに侵入し，皮革産業を発展させたのが源流であり,コルドバ革と称され高い名声を維持した。コルドバ革の中には，革表面に銀箔や錫箔を貼り付けた上に黄色のワニスや金ワニスを塗ったギルトレザー(gilt leather Vergoldenleder)と呼ばれる革があり，多量に生産され金唐革の原点となった。しかし，レコンキスタと呼ばれるキリスト教徒国家によるイベリア半島の再征服活動が行なわれ,1492年のグラナダ陥落でイスラム王朝であるナスル朝が滅亡した。それに伴い，16世紀にはイスラム教徒の迫害が始まり，ついに1609年にはスペイン王フェリぺ三世がイスラム教徒を追放し,ムーア人による皮革産業は壊滅的な打撃を受けた。その結果，中世ヨーロッパの製革技術はイタリア,ドイツ，フランドル(北海沿岸地方)，オランダおよびフランスで受け継がれた。

金唐革について

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