動物の社会的情動

菊水健史

摘要

レトゃ動物の情動を捉えるとき，その情動を制御するシステムが中枢神経系に存在することはおそらく疑いのないことであろう。脳の最も重要な機能は行動を起こすことであり，行動が複雑に制御されるにつれて，脳は肥大化してきていると言える。情動は，英語でemotion,すなわち行動を起こすための内から外への（ex-)動き（motion)の一つである。ヒトの複雑で洗練された様々な情動の起源を動物に求めるとき，それはおそらく美味しいものを食べたとか, 川の水が冷たかつたなどの物理的な環境から学習されたものよりはむしろ，家族や集団，競合相手などの社会行動の中に容易に見出すことが可能であろう。なぜなら情動の応答自体が進化の過程，特にォスとメスなどの個体間のやり取りの中で獲得された適応的反応であるからである。子供を見失つたときの不安感，恋愛中の高揚感，叱責を受けた後の落ち込みなど，読者の中にも他者との開係で自分の情動が大きく変化する実感があると思う。動物の中で観察される多くの社会行動，例えば母を求めて鳴く幼若個体や，仔に対して温かい養育行動を示す親，メスをめぐり闘争を続けるォス，意中のォスと交尾に至るメス，つがいを形成し常に寄り添うォスとメス，これらの動物の社会行動の背景にある認知機構，神経回路，分子，遺伝子を見出すことは，おそらくヒトにおける情動の起源を見つけることと重なってくると思われる。

動物の社会的情動

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