本稿では,環境研究総合推進費(JPMEERF20185002)の助成を受け2018~2020年度の期間で実施した「2020年船舶燃料油硫黄分規制強化による大気質改善効果の評価(GLIMMS-AQ: study on Global Limit for Marine Fuels Sulphur to better Air Quality)」の成果を紹介する.2016年10月に開催された第70回海洋環境保護委員会(MEPC70)での決定を受け,2020年1月より船舶燃料油中硫黄分濃度の規制上限値がこれまでの3.50%から0.50%に強化された(以下,2020IMO規制強化).同規制強化は排ガス中のSO_2のみならず,硫酸塩の削減も目的としているため,船舶の航行密度が高い地域においてはPM_(2.5)濃度の低減化につながることが期待されている.ここ数年,中国大陸での大気汚染対策により,日本国内におけるPM_(2.5)に対する環境基準達成率が改善傾向を示しており,例えばGLIMMS-AQ開始年度である2018年度のPM_(2.5)環境基準達成率は,一般環境大気測定局(以下,一般局)で93.5%(765/818局)まで改善していた.しかしながら,岡山県と香川県ではそれぞれ38.9%(7/18局)および66.7%(8/12局)に留まっており,越境大気汚染の影響を受けやすい九州地方よりも達成率が低い状況にあった.両県は,瀬戸内海を挟んだ地理的関係にある.瀬戸内海は中国山地と四国山地に挟まれた内海であり,その沿岸には大規模固定発生源地域が複数存在する.そして海上には多くの船舶が往来する.したがって瀬戸内海の船舶から排出された汚染物質が,たとえば海陸風循環流や海上の滞留冷気層に蓄積·変質して高濃度のPM_(2.5)を生成し,沿岸部に影響する可能性は検討に値する.
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