連載:トライボロジーを語る: トライボロジーの本質とこれから: トライボロジーの本質とこれから

梅原徳次

摘要

トライボロジーの学問と技術における本質は何であろうか．自問自答してみた．学問としては，潤滑形態が分類され，摩擦と摩耗の発現機構が提案されている．摩擦の発現機構ではダビンチやクーロンの実験に基づく巨視的な経験則から始まり，バウデンらによる真実接触点に注目する微視的な検討が行われてきた．この微視的な検討が，マイクロトライボロジーとなっていった．これは，周囲の雰囲気ガスや微量な油や汚染膜でも摩擦が大きく異なるため，「微視的に捉えるトライボロジー（マイクロメータスケールのトライボロジー）」として．雰囲気ガスの吸着や接触点の構造による原子間力や突起の変形と破壊に基づくトライボロジー研究が進められてきた．これがトライボロジー研究の本質の一つであると思う．一方，もう一つの本質としては，トライボロジー現象の非定常性にあるのではないかと考える．固体摩擦により，接触点の変形や摩耗が生じ微視的接触応力が変わり，摩擦熱が変わり，周囲の環境との反応で摩擦面での原子間力が変化する．さらに，繰り返すことで，巨視的な形状や温度も変化し，巨視的な材質の変化となる．このような繰返し摩擦により，いわゆる「なじみ」や「焼付き」が生じる．このような時間や摩擦繰返しによる微視的接触点での摩擦条件の変化による摩擦の非定常性は，接触している限り逃れられないトライボロジー研究の本質の一つと考える．これにより摩擦が減少する場合も，増大する場合も，周期変動する場合もあり，実用的なトライボロジー技術としても重要である．非定常性の原因を明らかにするためには，摩擦界面での接触の状況と摩擦力や摩耗体積を同時にモニタリングすることが必要であり，いわゆる摩擦界面のその場評価が必須である．これは同じマイクロでも，「微小時間で捉えるトライボロジー（マイクロ秒スケールのトライボロジー）」である．また，現象が変化していくため「遷移現象のトライボロジー」である．個々の要素となる現象を状態量として捉えるだけでなく，その後，どのように状態量が変化するかの微分量や積分量が及ぼす影響をどのように捉えるか，個々の現象をモデル化したのちの摩擦システムにおいて制御理論の適応が必要になる．

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