数学者の思案—フィールズ賞と国際数学者会議

河東泰之

摘要

ノーベル数学賞というものはない。このことは科学関係者なら誰でも知っていると思うが，世間一般でそれほどよく知られているわけではない。数学の学生，若い研究者で周りから，ノーベル賞が取れるようにがんばってね，と言われたことのある人は多いであろう。その代わりに数学のノーベル賞としばしば言われるのがフィールズ賞である。しかしこのフィールズ賞は，受賞年の12月31日時点で40歳以下という年齢制限があること，4年に一度しか授与されないこと，1回の受賞者は2～4人でそれは共同受賞ではなく別々の業績であること，賞金額が200万円程度であることなど，ノーベル賞とは異なる点が多い。もっとノーベル賞に似た賞としては，2002年にノルウェー政府が創設したアーベル賞がある。これは，長老クラスの数学者の一生の業績に対して与えられること，毎年1件(たいてい1人だが2人のこともある)に与えられること，賞金額が約1億円であることなどの点がフィールズ賞と異なっている。(なおアーベルとは26歳で夭折した19世紀ノルウェーの天才数学者である。)また最近では2014年に，賞金額約3億円の数学ブレイクスルー賞がメタ(旧フェイスブック)創業者のザッカーバーグらによって創設され，日本でも京都大学数理解析研究所の望月拓郎氏が2022年に受賞している。しかし1936年からの歴史の重みか，今も数学界最高の賞はフィールズ賞だという意識の数学関係者が多いと思う。年齢制限のため受賞者は必ず若いこと，受賞後も最高レベルでの活躍を長い間続ける人が多いことも高い評価の理由になっているのだろう。

数学者の思案—フィールズ賞と国際数学者会議

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