臓器透明化技術のバイオ活用法

小野寺宏

摘要

“標本を透明化してその内部の立体構造を観察したい”という欲求から多くの透明化技術が報告されてきた．アルカリ液で軟部組織を溶解除去し骨と軟骨を着色する技術は魚類や両生類の骨格標本作成法として学術分野にとどまらず教育現場にも広く普及している．植物研究者や昆虫愛好家の間では高濃度の糖やグリセリン液に浸漬して軟部組織を残しつつ防腐と透明化を実現する手法が愛用されている．遺伝子改変技術の進歩により動植物の特定の細胞の機能を蛍光蛋白（green fluorescent proteinなど）で観察できるようになった．そこで臓器から連続切片を切り出して蛍光顕微鏡で観察し3次元的に臓器機能を解析した論文が多数発表されたが，連続切片作成には多大な労力と長時間を要するうえ切片変形が不可避であり労力に見合う成果を得ることは容易でない．光学的に不透明な標本でも50μm程度の薄い標本であれば共焦点顕微鏡や多光子顕微鏡による立体構造観察は可能だが．近年の標本透明化技術を用いると脳組織であれば多光子顕微鏡で1000μmの深部まで観察できるようになった．わが国の病理医不足はきわめて深刻であり2600余名の病理専門医が年間500万件を超える検体を診断するなど病理医の負担は限界に達している．病理標本の透明化による検体の丸ごと撮像により，“癌を見落とさない自動検査”の実用化が待たれる．しかし従来の臓器透明化技術には克服すべき課題が多いため臨床病理診断や新薬開発，一般バイオ研究には普及していない．本稿では従来の臓器透明化技術を概観するとともに，それらの欠点を克服した臓器透明化技術LUCIDの医学とバイオ研究における活用例を紹介する．

臓器透明化技術のバイオ活用法

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