日本の技術(3)昭和·平成－キャッチアップから知の創造へ

米澤克雄; Katsuo YONEZAWA

摘要

日本人のものづくりには，向かい合っている対象物に自分の全人格を投入，埋没させる「自己同化」の伝統があるという．マトリックス組織の知識創造は，専門に分かれて行われエクスパティーズが深まるが，それだけ個別領域内に限定され，このままでは複合分野（機械と電子の複合分野のメカトロニクス，通信とコンピュータの複合分野のC＆C等）にわたる知識創造が脆弱となる．分野にまたがるエクスパディーズはプロジェクト·マネジャやプロジェクト·エンジニアにも蓄積するが，より専門的なエクスパティーズの蓄積は容易ではない．日本の組織においては，自己の領域に関係あることは何でもだいたいこなせるのが専門家の腕との価値観があり，単一領域の専門家から周辺領域の経験を積み重ね「複合領域」の専門家に成長する伝統がある．欧米ではギルトの伝統に根ざす産業別·職業別組合が企業の枠を超えて組織されており，互いに他組合の領域を侵さないことで既得権を守るが，逆に組合員は単一領域に束縛されることに安住する．この結果，日本の知識創造エンジニアリングは専門家として単一領域の能力の深さで欧米に譲る傾向にあるが，複合領域の能力の深さで欧米を凌いできている．以下に，この知識創造の過程を各時代ごとに，具体的な事例で見ていくこととする．

日本の技術(3)昭和·平成－キャッチアップから知の創造へ

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