鋼のミクロが機械的なマクロ挙動を支配する－人が物を見る目の固定した尺度を外すと何が見えてくるか

秋山雅義; Masayoshi AKIYAMA

摘要

以前にご緑を頂戴して雑誌「計算工学」に寄稿する機会があった．それは計算の専門家ではない筆者には大それたことではあったが，実物に近い視点で筆を起こしてよいとの主査のお言葉に甘えて書かせていただいた．それを今回の特集号の主査の方が読んで下さっており，寄稿のお誘いを受けたが，執筆予定者のほとんどが理論的研究をされている方と聞いて，鉄鋼会社に身を置こく筆者は一瞬の逡巡を禁じ得なかった．筆者はマルチスケールモデリングを自家薬籠中（じかやくろうちゅう）のものとしている訳ではない．つまり，歴史に残る第一級の教科書を著す能力はない．知ったかぶりで執筆しては読者に申し訳ないし，後の時代に精密な実験をしてみると実物の挙動が計算結果と異なっていた，つまり計算でうそをついてしまっては技術者失格である．設計に関しては，筆者には塑性加工関連のわずかな経験しかないが，設計関連の数値計算はパーフォーマンスでは断じてないのである．逡巡は正直な反応であったと今でも思う．しかし主査の方は，応用面から辛口の意見を述べて欲しい，との強いご希望をお持ちであった．辛口の文章執筆には高い見識がいるし，また自分は辛口人間なのかと大いに悩んだが，最後に，主査のご希望が，マルチスケール法に関する筆者の思いを物に近い視点から書くようにということだと理解でき，それならば，ということでお受けした次第である．以上が筆者の掲げた表題や副題に，本特集号の主題である「マルチスケールモデリング」という言葉がない理由である．あるご縁から均質化法の力を知る幸運に巡り合った身として，異なる尺度で物を見ることの重要性について書かせていただく．技術者が設計をする際に，対象となる材料の挙動を規定しなければならない局面があるが，その「挙動」なるものを異なる尺度で観察し，観察結果を対比することで見えてくる風景もあろう．そのことを通じて数値解析に対する筆者なりの期待を述べることで，数値解析技術へのご恩返しとし，併せて読者諸賢からの辛口のご批評を仰ぎたい．

鋼のミクロが機械的なマクロ挙動を支配する－人が物を見る目の固定した尺度を外すと何が見えてくるか

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