量子コンピュータ技術の歴史と展望

井元信之

摘要

ブームという観点から言えば，今回は第2次量子情報処理ブームである．第1次ブームは世紀の変わり目の前後，EUのPathfinderに続いてわが国も競争的研究資金の支援など，10年近く盛り上がった．米国でももちろん盛んであったが，中国ではまだほとんど始まっていなかった．本特集は（したがって本稿も）量子コンピュータ·量子アニーラを中心としたものであるが，量子技術の革新はほかに量子暗号，量子センシング，量子新物性も重要であり，特に量子暗号と量子コンピュータは，夜明けの時代から第1次ブームまでほぼ同じメンバーで量子情報コミュニティを形成していた．そのころ，量子暗号は実用試験に踏み出していたが，量子コンピュータはすぐにはモノにならないと考えられたこともあって，第1次ブームは下火になった．ところが，現在は量子コンピュータの方が第2次ブームを——それも民間が率先して——支えている．それに加えて欧米·中国を見渡せる官が量子暗号·量子センシング·量子新物性も漏らしてはならじとテコ入れする様相を呈している．今後の進展のためには，必ずしも第1次ブームまでの経緯にとらわれる必要はないが，歴史を振り返ることは無駄にならない．本稿では，その歴史と展望を述べる役割を与えられたわけであるが，まずどこから夜明けと思うかという認識からして人によってあるいは立場によって異なると感じている．努めてニュートラルに書こうと思うが，筆者の定点観測であることは免れないし，紙数の都合もあるので，すべてを記述できないことをお断りしておく．

量子コンピュータ技術の歴史と展望

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