自然現象とトライボロジー：土砂くずれの化学

坂井宏行; Hiroyuki SAKAI

摘要

日本は災害国であり，国土を保全する観点から，災害発生の予知と対策は，きわめて重要な国家的課題である．気象災害については，気象予報がよく整備されてきており，台風や大雪の到来が，予知の不手際により重大な人的災害に発展することは少なくなった．しかし，地震や土砂くずれなどの地盤災害は，マトリックスである地盤が可視的でないこともあり，予兆の観測には今なお苦労している．地盤の状態の監視は，面的ではなく点的であり，このため，得られる情報は少なく，災害の予知·予報は，容易ではない．古くから，日本の山間部を悩ましてきた斜面災害として地すべりがある．その典型的な形態は，緩慢，かつ，繰り返し発生するものである．この種の地すべりは，広範囲な土塊移動を伴うことが多い．また，一時的に安定しても，数年から十数年後に再び滑動を開始してしまうので，その対策にはきりがない．このような地すべり運動は，山腹に，傾斜の緩やかな斜面を造りだした．平地の少ないわが国にとっては，貴重な耕作地となっている．水の張られた千枚田に映った月は美しく，「田毎の月」として日本の代表的な晩春の風景となっている．しかし，これは人的被害をももたらす地すべり災害の産物に他ならない．このような地域には，地すべりと戦った長く暗高歴史がある．土木工学的な検討がなされていない時代には，神仏に祈るしかなく，人柱はついこの間まで実際にあった話である．ここでは，土砂くずれの典型例として代表的な地すべりを取り上げ，その現象の過程で起こる化学について解説する．また，災害防止の観点から不可欠な災害予知の意義と，この理解のもとに行なわれている地すべり発生の予知方法を紹介する．

自然現象とトライボロジー：土砂くずれの化学

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